人間の不幸とは
数年前、ノーベル平和賞を授賞されたマザーテレサ女史が来日した時、記念講演で、「人間にとって最大の不幸は病気でも貧乏でもない。自分が誰からも必要とされてない、誰からも愛されていないと感じることです」と話されていました。
私たちにとって自己の存在が認められない、必要とされないと感じることほどつらいことはないでしょう。サラリーマンが会社で、お年寄りが家庭で、子供が学校で、少しも存在が認められず、必要とされなかったら生きる意味を見失ってしまいます。
愛の反対語は憎しみですが、現代では無関心であるといわれます。誰からも相手にされない、無視されるということは本当に辛いことでしょう。
以前ある会社でノイローゼになり、自殺した方がいましたが、お通夜の時、精神科医の先生がみえてこんな話しをされていました。「ノイローゼの末期の患者にとって、救いは一つしかありません。それは会社の上司や同僚の人たちが、みんなあなたが来るのを待っている、あなたの力を必要としているんだと、その人の存在をそのまま温かく認めてあげる以外に救いはありません」と話されていました。
先日ある家にお参りした時のことです。若い人だけでおいしそうなものを食べていると、お婆ちゃんが、「ただいま」と帰ってきました。するとお嫁さんが、「あ、お婆ちゃんが帰ってきた。さあかくそうかくそう」といって急いでかくしていました。とても悲しい光景でした。人間は必ず年老いていきます。そしていくら年老いても存在を否定されることほどつらいことはありません。
以前あるお婆ちゃんが、「私の一番うれしいことは、若い人から温かい言葉、優しい言葉をかけられることです」としみじみと話されたことが忘れられません。
『聞法(1993(平成5)年7月15日発行)』(著者 : 不死川 浄)より