熊はんと御隠居が読む阿弥陀経:その22
【熊】 「御隠居はん、阿弥陀さまは寿命無量ということも、ゆうたはりましたな。」
【御隠居】「そうや、次のとこ読んでみてくれるか。」
【熊】 「へえ、『又舎利弗 彼仏寿命 及其人民 無量無辺 阿僧祇劫 故名阿弥陀』。」
【御隠居】「おっ、そこまでや。そこに『無量無辺 阿僧祇劫』とあるのは、限りないことということやな。」
【熊】 「ああ、ここにある劫て、五劫の話で聞かせてもろたやつでんな。そんなら、阿弥陀さまが寿命無量なんでんな。」
【御隠居】「それだけやないんやで、その前に『彼仏寿命 及其人民』てあるやろ。そこは、『かの仏の寿命、およびその人民』と読むんやな。」
【熊】 「にんみんて何でっか。」
【御隠居】「ああ、にんみんていうのは、人々ということや。」
【熊】 「どこの人なんでっか。」
【御隠居】「阿弥陀さまの国の人々ということやから、お浄土に生まれた人のことやな。」
【熊】 「そしたら、阿弥陀さまがほかの仏さんと違うのは、自分だけが寿命無量になるんやのうて、わてらもお浄土に生まれると、限りないいのちを恵まれるからなんでんな。」
【御隠居】「そういうことやな。せやから、どんなもんにも邪魔されることなく、私らを救おうとはたらいて下さり、お浄土に生まれるものに限りないいのちを恵んで下さるからこそ、阿弥陀と名付けられたんやと、お釈迦さんは舎利弗はんに語ったはるんや。」
【熊】 「へえー、そうだっか。そんなら、わてらは、お浄土に生まれた時には、阿弥陀さまとおんなじ仏さまになるんでんなあ。ところで、御隠居はん、ここにも劫が出てまっせ。こっちは『正信偈』の倍の十劫てなってまんなあ。これはどういうことだんねん。」
【御隠居】「ああ、ここかいな。これはな、今は、阿弥陀さまが仏さまになられてから、十劫過ぎてるといわれてるんや。」
【熊】 「はあー、そうすると、阿弥陀さまの劫齢でんな。」
【御隠居】「なんやんねん、その劫齢というのは。」
【熊】 「いや、人間でしたら、年齢でっけど、劫が何年か解りまへんので、年齢やのうて、劫齢にしましてん。」
【御隠居】「なんや、けったいなこというな。せやけどな、生きとし生けるものを全て救えなんだら、仏にならんと願いを建てはった方が、いま阿弥陀と名乗ってくれはったんやから、私らは、間違いのない救いに出遇うことが出来たんやな。そのことを阿弥陀さまとならはった十劫の昔から、私を喚んでくれはってたんやな。」
【熊】 「そうでんなあ。それほど阿弥陀さまはご苦労してくれはったんでんな。」
『聞法(1995(平成7)年9月1日発行)』(著者:義本弘導)より